ヒグチアイ インタビュー

シンガーソングライター ヒグチアイが

Westone Audio MACHシリーズ全モデルを聴き比べ

飾りのない言葉を丁寧に紡ぎ、心に響くピアノの音色とともに歌い上げる、シンガーソングライターのヒグチアイさん。20223月にリリースされた4枚目のアルバム「最悪最愛」にも収録されたアニメ「進撃の巨人」のエンディングテーマ「悪魔の子」は大きな話題を呼びました。今回は、そのヒグチアイさんをお招きし、Westone Audioの新たな MACHシリーズの全8モデル、「MACH 10」「MACH 20」「MACH 30」「MACH 40」「MACH 50」「MACH 60」「MACH 70」「MACH 80」を聴き比べていただきました。

心の持ちようを変えると、前向きな空気が出てくる。

  • ヒグチさんは、どんなきっかけで音楽を始められたのですか。

ヒグチアイ:2歳の時に母の影響でピアノを始めて、ずっとクラシックピアノを弾いていました。その後合唱部や軽音楽部に入り、高校ではポップスのバンドをやって、18歳ぐらいの時からシンガーソングライターとして活動しています。

 

  • ピアノでの弾き語りが多いですが、やっぱりピアノはお好きなんですか。

ヒグチアイ:改めて考えると、好きではないですね。でも嫌いじゃないです。ずっと一緒にいるものというか、ついてまわるもの。家族みたいな感じです。

 

 

  • シンガーソングライターとしてのデビューのきっかけは?

ヒグチアイ:26歳の時にメジャーデビューしたんですけど、その前の2年間ぐらい、全く音楽をやる気力がなくて、年間3曲ぐらいしか曲を書いていなかったんです。とある事情もあって結婚して音楽をやめようとしたんですけど、その時「もしかしたら自分は音楽をやめる理由を探して逃げているんじゃないか」って思ったんですよ。でも、ちゃんと音楽と向き合わないと、やめるにやめられない。そうでなければいつか音楽をやめたことを後悔すると思って、音楽を続ける決心をしたら、その3カ月後にメジャーデビューが決まりました。

 

  • すごいタイミングですね。決心すると、そうやって物事が動くものなんですか。

ヒグチアイ:私はそんな気がします。決心したり、心をちょっと変えると、人の空気が変わると思うんです。もっと人とつながりたいと思うことで、前向きな空気が出てくるような気がしていて、それが良かったんじゃないかな。大きくはそのメジャーデビューでしたことでしたけど、それだけじゃなくて、お客さんがたくさん見に来てくれるようになったり、気持ちをしっかり伝えられるライブができるようになったりもしました。心の持ちようを変えるって、大事なことかもしれないです。

 

  • デビューしてから変わったことや、良かったなと思うことはありますか?

ヒグチアイ:デビューして5年になりますが、本質的に全然変わっていないです。華々しいデビューではなかったけれど、それが自分にはすごく合っていて、見える範囲のところを着実に踏めて来られたと思っています。今ではキャパオーバーしちゃっているなという瞬間もありますし、自分が試されてると感じることもありますが、自分を知ることができたという点で、デビューして良かったと思っています。

 

普通の人の生活もちゃんと書けば、曲になる。

  • 「最悪最愛」は、4枚目のアルバムですが、今までのアルバムとどんなところが違うのでしょうか。

ヒグチアイ:今までのアルバムと比べると、ちょっと聴きやすくなったかなという気がします。今32歳なんですけど、20代の頃に作っていたアルバムは、自分を切って切って、切り売りしていくことで曲を作っていました。でも、ここ2年ぐらいで、切り売りを続けていくと、自分がなくなっちゃうんじゃないかと、強く思ったんです。ですから、自分を切り売りするのは変わらないんだけど、前は素材そのもの、例えばニンジンだったら切って、そのまま出していました。でも今は、ニンジンをちゃんと料理にして出すようになったので、素材としては少しでも、いろんな人に楽しんでもらえるものができるようになったと思います。

 

  • 身を削っているような作品だから、曲作りは大変だろうなと思っていたので良かったです。この2年というと、コロナ禍も制作に影響しているのでしょうか。

ヒグチアイ:影響は大きかったと思います。最初はコロナ禍という状況が、どんな曲を書いても絡みついてしまっていました。それで「一回コロナと対峙して、コロナ関連の曲を作ってみよう」と思ったんです。そうして、コロナ禍の中でも普通の生活を始めている、自分以外の人を曲に書くうちに、自分の中で制作の形が変わってきたような気がします。それまで私自身も「自分をつまらない人間だ」と思っていた面があるんですけど、普通の人の普通の生活も、ちゃんとつくればいい曲になるんだなと思うようになりました。こんなふうに考えられるようになったのは、コロナ禍の間にいろいろ考える時間がとれたからだと思います。

 

  • 今回のアルバム「最悪最愛」は、どんなコンセプトで制作されたのですか。

ヒグチアイ:最悪と最愛って両極端の言葉なんですけど「人は常に両極端の気持ちを持っている」というのが今回のテーマです。ピアノも、家族もそうですけど、ちゃんと愛しているのに憎んでしまう時があるように、矛盾しているのが「人」だと。

ヒグチアイ / 4thアルバム「最 悪 最 愛」

2022/03/02 リリース

 

  • テーマソングを作られたテレビドラマ「生きるとか死ぬとか父親とか」の人間関係も、まさに矛盾していますよね。

ヒグチアイ:そうですね。ドラマ「生きるとか死ぬとか父親とか」では「縁(ゆかり)」という曲を書きました。このアルバムはその曲から始まっています。曲を書き始めた時は、まだドラマができる前でしたので、原作エッセイを読んで曲を書き下ろしました。本当にリアルな家族で、すごく大好きな作品でした。

 

  • アニメ「進撃の巨人」のエンディングテーマ「悪魔の子」は大きな話題となってビックリされたんじゃないですか。

ヒグチアイ:ほんとに驚きました。原作マンガも読んでいたし「進撃の巨人」という作品が世界中で話題になっていることは知っていましたが、ここまでとは! 曲が出てから「ああ、そういうことなんだな」と実感しました。制作中はワクワクしながら夢中で作っていましたが、その後こんなことになるのを知っていたら、もっとプレッシャーを感じていたと思います。知らなくて良かった!

 

  • ご自身のことを歌にすることが多いヒグチアイさんが依頼を受けて曲を作るというのは、どういう気分なんですか。

ヒグチアイ:「楽だな」って思います(笑)。いつもは自分の身を食べてもらわなきゃいけないけど、もう素材は用意されているわけですからね。いつもは自分を削る部分を、誰かが削って持って来てくれるので、格段に楽です。

 

  • そうすると、逆に曲作りの職人的な部分が逆に出るんですか?

 ヒグチアイ:そうですね。ドラマやアニメのテーマソングは、結局1番の歌詞しか使われないじゃないですか。だから1番の歌詞には、依頼側からのいろんなチェックが入るんですけど、2番はわりと自由に作れます。それで1番ではこう言っていたことが、2番ではこういう意味だったんだぞというオチをつけることができる。そうやって裏切っていく面白さを、職人として楽しんでいます。曲を聴いてくださる方にも、そのあたりに何か引っかかりを感じてもらえると嬉しいです。

 

自分の歌が一番よく聴くこえる「MACH 70」が一番好き。

  • ここからは、Westone Audio MACHシリーズを試聴した感想を聞きます。全モデル8機種を事前にご試聴いただきましたが、ちょっと多めでしたね(笑)。

 ヒグチ:はい、届いたときはびっくりしました。8個ですからね。聴き分けられなかったらどうしようって(笑)。でも日をまたいだら感想が変わっちゃいそうでしたので、8機種を一気に聴き比べました。試聴曲はスマホで再生したオーロラの「アニマル」という曲と、パソコン(WAVファイル)で再生した私の「悲しい歌がある理由」と「悪魔の子」の全部で3曲。それを全部のモデルで聴きました。

  • では、聴いた順にコメントをお願いします。

ヒグチアイ:最初に聴いたのが「MACH 40」で、これが今回の全モデルの評価基準となりました。「MACH 40」は、いつも聴いているイヤホンより、ボーカルの立体感や楽器の位置が、頭の中でしっかりと定位するな、というのが最初の印象です。

次に聴いた「MACH 50」は「MACH 40」と比べると結構刺激が強い感じ。刺激が強いんだけど整然としていて、どれもきちんと長方形の箱の中に音がある、という感じがしました。ただ刺激を感じてるということは、そこからたまに飛び出しているということなのかな。

MACH 30」は、バランスがすごく良いなと思いました。「MACH 40」や「MACH 50」と比べると、音場がもっとまとまっていて、音を探さなくても、真ん中に存在しているという感じがしました。

そして「MACH 60」は、バランスが取れているけど、スパイスが効いているという印象。「MACH 30」のように音場は真ん中にまとまっているんだけど、出たい音がパッと飛び出す、音の瞬発力みたいなものを感じました。ハイが強いって言ったら簡単すぎる感じはするんですけど。

MACH 20」は、ボーカルがキラキラしていて、「悪魔の子」がめちゃくちゃよく聴こえました。今まであまり聴こえなかったベースラインが、フワッと上がってきた感じがしたんです。細かいニュアンスまで聴こえて、ボーカルチェックがしやすいかも。

そして私は、MACH 70」が一番好きです! 私の歌が一番よく聴こえるから(笑)。歌がすごく丸く聴こえるという印象でした。尖りすぎていないんだけど、全体に丸いという感じではなくて、太さの尖りがあるというか、バランス良く重量感がありました。私はこういう音が一番好きなんです。

MACH 80」は、人の声が一番生音らしく聴こえると思いました。でもちょっとハイが強いかなという印象。あと楽器やボーカルそれぞれの音がきれいに分離して聴こえたので、ミックスチェックにいいんじゃないでしょうか。仕事で冷静に聴きたいときなどに向いているかもしれません。

最後の「MACH 10」は、他のものと比べると軽めというか、ボーカルの声が前面に浮かんで聴こえたので、歌詞が聴きやすかった気がします。弾き語りの「悲しい歌がある理由」という曲は、ピアノと歌だけなんですけど、そのボーカルチェックにはとても良さそうだと感じました。

 

  • MACHシリーズでヒグチアイさんがベスト3を選ぶとしたら?

 ヒグチアイ:ベスト1は「MACH 70」。「MACH 70」は、私の声にすごく合っているような気がしました。私の声はハイがあんまり強くなくて、ロー・ミッドが持ち味だと思っているんですけど、そこをちゃんと持ち上げてくれている感があります。あとは迷いますね。2番は「MACH 40」かな。ビアノがトゲトゲしすぎず、私の声も聴きやすくて、弾き語りの歌は特に、私らしさが出ている気がしました。3番目は、ビアノがきれいだった「MACH 50」にします。聴いていて楽しい、派手な感じがありました。でも、「自分はどの音が好きか」だけじゃなくて、「こういう曲を聴きたいならこれ」みたいに、用途によっても選び方が違ってくるんじゃないかなと思います。

 

 

  • 最後に、今後の活動や目指したいこと、夢などがあればお願いします。

 ヒグチアイ:「感動を前のめりに!」がモットー。人生を充実させないと、絶対にいい曲はかけないと思っているので、今年はそれを重点的にやろうと考えています。今一番やりたいことは、野生のシャチを見ること! 面白そうだと思ったら何でもやってみたいし、何でも楽しめるような人になりたい。全然面白そうじゃないことでも、「ここが面白そう!」という気持ちでチャレンジできたらなと思います。

  • ヒグチアイさんが、次にどんな曲を作られるのか、楽しみです。本日はありがとうございました!

 

 

Profile ヒグチアイ/Ai Higuchi

平成元年生まれのシンガーソングライター。2歳のころからクラシックピアノを習い、その後ヴァイオリン・合唱・声楽・ドラム・ギターなどを経験しながら、様々な音楽に触れ、18歳より鍵盤弾き語りをメインとして活動を開始する。2016年、1st ALBUM『百六十度』でメジャーデビュー。これまでに培った演奏力と、本質的な音楽性の高さが業界内外から高い評価を受け、「FUJI ROCK FESTIVAL」「RISING SUN ROCK FESTIVAL」など大型フェスへの出演も果たす。

ヒグチアイ 公式ウェブサイト

https://www.higuchiai.com/

 

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